酸化還元反応(さんかかんげんはんのう)とは化学反応のうち、反応物から生成物が生ずる過程において、原子やイオンあるいは化合物間で電子の授受がある反応のことである。英語表記の Reduction / Oxidation から、レドックス (Redox) というかばん語も一般的に使われている。酸化還元反応ではある物質の酸化プロセスと別の物質の還元プロセスが必ず並行して進行する。言い換えれば、一組の酸化される物質と還元される物質があってはじめて酸化還元反応が完結する。したがって、反応を考えている人の目的や立場の違いによって単に「酸化反応」あるいは「還元反応」と呼称されている反応はいずれも酸化還元反応と呼ぶべきものである。酸化還元反応式は、そのとき酸化される物質が電子を放出する反応と、還元される物質が電子を受け取る反応に分けて記述する、すなわち電子を含む2つの反応式に分割して記述することができる。このように電子を含んで式化したものを半反応式、半電池反応式、あるいは半電池式と呼ぶ。
レドックス(redox) とは、還元(reduction)と酸化(oxidation)を合わせた造語で、文字通り酸化還元の意味である。 生体内では、還元物質であるNADHやNADPHの酸化還元の伴う様々な酵素反応が行われて、いわゆる代謝反応全体を駆動しているので、生体内の酸化還元状態は生命を維持する極めて重要なファクターと言うことになる。また、私たちの体内のエネルギー生産装置であるミトコンドリアの呼吸鎖や、植物の光エネルギー変換装置である葉緑体の光合成電子伝達系では、常に還元力を生み出しているので、好気的代謝の副産物として、スーパーオキシドやヒドロキシラジカル、一重項酸素、過酸化水素など非常に強い酸化力を持つ活性酸素種(ROS : reactive oxygen species)が生じることで、日常的に酸化ストレスに曝されることになる。これらのROSは、生体内のタンパク質、脂質など重要な生体構成成分を酸化してしまうため、生体内にはこれらの酸化ストレスに対する防御システムも発達しているが、このシステムもまた酸化還元反応によって成り立っている。
一方、生体内で働いている酵素の中には、酵素分子自身が酸化や還元をされることによってその酵素活性を変化させる、すなわち、生体内環境の変化に応じて活性が調節されている例が数多くある。例えば、光合成反応では、光が当たっているときにだけ二酸化炭素から糖が合成される反応(炭素同化反応)が行われているが、この反応に関わるいくつかの酵素は還元されると酵素活性がオンになるスイッチを備えていて、昼と夜の反応の制御を行っている(図1)。
好気性生物は、生体内で酸化還元反応を利用したエネルギー代謝により、エネルギーを産生しています。エネルギー代謝の副産物として、活性酸素種が発生しますが、生体内は抗酸化防御機構も兼ね備えています。活性酸素種は様々な原因で発生します。例えば生理的因子として呼吸、白血球などによる異物や細菌の処理、薬物の代謝処理など、病的因子として虚血再還流、過度の運動、精神的・肉体的ストレス、感染、炎症など、外的因子として喫煙、紫外線、放射線、大気汚染、重金属などがあげられます。抗酸化防御機構による活性酸素種の消去能力を上回る活性酸素種は、タンパク質や脂質、糖質、核酸などの生体成分を酸化修飾し、生理機能の低下、疾病の発症や進行、老化などの一因となることが報告されています。このような訳で、酸化ストレスが一因とされる疾病の治療法や新規治療法開発に、レドックス制御機構が着目されています。活性酸素という言葉をサイエンス番組等で耳にしたことがあると思います。活性酸素種(ROS:reactive oxygen species)とは、反応性の高い酸素種の総称で、スーパーオキシド(superoxide:O2•-)、過酸化水素(hydrogen peroxide:H2O2)、ヒドロキシラジカル(hydroxyl radical:•OH)、一重項酸素(singlet oxygen:1O2)などがあり(図2)、生体内で酸化剤として作用します。また、スーパーオキシドとヒドロキシラジカルは不対電子を持つので、フリーラジカルともよばれます。生体内の主な活性酸素種発生源はミトコンドリアです。ミトコンドリアは生体内の約95%の酸素を消費し、そのうち1~3%が活性酸素種に変換されると推測されています。酸素分子が一電子還元されるとスーパーオキシドになります。電子伝達系から漏れ出る電子が酸素分子を還元し、複合体Iからマトリックス側に、複合体IIIからマトリックスと膜間腔側に、それぞれスーパーオキシドが産生されることが報告されています。また、好中球やマクロファージなどの貪食細胞において、NADPHオキシダーゼなどの活性酸素産生酵素系によりスーパーオキシドを産生し、生体防御に必要不可欠な役割を担っています。
生体内にはスーパーオキシドを酸素と過酸化水素に不均化する酵素であるスーパーオキシドジスムターゼ(SOD:superoxide dismutase)が存在し、活性酸素種の最上流であるスーパーオキシドを式1、2のように不均化します。
M(n+1)+—SOD + O2•- → Mn+—SOD + O2 (式1)
Mn+—SOD + O2•- + 2H+ → M(n+1)+—SOD + H2O2 (式2)
Mは活性中心のMetalを表し、Cu (n=1), Mn (n=2) ヒトSODにはSOD1(Cu,Zn-SOD)、SOD2(Mn-SOD)、SOD3(EC-SOD:extracellular SOD)の3つのアイソフォームがあり、ミトコンドリアのマトリックスに存在するSOD2のノックアウトマウスは胎生致死であることより、ミトコンドリアで発生するスーパーオキシドを消去することは生命維持に不可欠であることがわかります。
スーパーオキシドが一電子還元された過酸化水素は、不対電子を持たないのでフリーラジカルではありませんが、活性酸素種のひとつです。SODがスーパーオキシドを不均化した際に生じます。また、グルコースオキシダーゼなどによって酸素分子から二電子還元によっても生成されます。過酸化水素はミトコンドリア内膜、外膜など細胞膜を通過できるので、細胞内の鉄などの遷移金属と反応すると、式3のように一電子還元され、ヒドロキシラジカルを生じます。
H2O2 + Fe2+ → •OH + OH- + Fe3+ (式3)
式3の反応はフェントン反応と呼ばれ、生体内で生じるほとんどのヒドロキシラジカルは、この反応で生じると考えられています。また、式4のハーバー・ワイス反応のように過酸化水素はスーパーオキシドとの反応でもヒドロキシラジカルが生じます。
H2O2 + O2•- → •OH + OH- + O2 (式4)
ヒドロキシラジカルは活性酸素種の中でも非常に反応性が高く、タンパク質や脂質、糖質、核酸などの生体成分を酸化します。従って、ヒドロキシラジカルの前駆体である過酸化水素を消去することは重要です。生体内にはグルタチオンペルオキシダーゼ/グルタチオンリダクターゼや、ペルオキシレドキシン/チオレドキシン/チオレドキシンリダクターゼ、カタラーゼなどの過酸化水素を還元する抗酸化機構があり、これらの酵素反応によって水へと還元されます。
酸素原子はL殻に2個の不対電子を持っており、酸素分子を形成する際にそのうちのひとつの不対電子が互いに結合に用いられるので、合計2個の不対電子を持つ分子構造をとり、ビラジカルとよばれます。通常、酸素分子にある2個の不対電子のスピンは、三重項酸素(3O2)という比較的安定な基底状態で存在しています。リボフラビンやポルフィリン、抗生物質や抗炎症薬など光増感剤として働く可能性がある物質の存在下で、光反応により励起状態となり、2個の不対電子のスピンが逆向きになり、一重項酸素(Σ1O2)になります。逆スピンをもつ2個の不対電子は非常に不安定なので、同一軌道上に遷移し、一方の電子軌道が空になります(Δ1O2)。Δ1O2の方が安定なため、通常一重項酸素はΔ状態をさします。空になった電子軌道が電子を求めることにより、一重項酸素は強い酸化力を持ち、不飽和脂肪酸のような二重結合を有する化合物を酸化して脂質ヒドロペルオキシドを生成します。また、ポルフィリン症患者では日光に強く当たると一重項酸素により皮膚障害が起きることも報告されています。
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